「宍戸さんって、跡部部長と必要以上に仲いいですよね」
部活からくたくたになって家へと帰っていく途中だった。
むらさき色の夕陽の下、人影のない住宅街を二人で歩いているとき――
長太郎はぽつりとつぶやいた。
「はぁ?そうか?」
俺は長太郎の突拍子もない言葉に眉根を寄せた。
一体どんな顔してそんなことを言うのかと思い顔をのぞきこもうとしたら、
ふいっとそっぽを向かれた。
なんだ?長太郎のくせにやけに生意気だ。
「そうですよ。だって……宍戸さん、
跡部部長が練習試合のときはいっつも跡部部長のこと見てるし、
普段のときだって、
よくつるんでるし」
長太郎はうつむいて背中を丸めてる。
せっかくの長身もこれじゃカッコ悪い。
「べーつに、仲がいいって言ったって、アイツとは幼馴染みだしよ、
それにテニスだってうまいし……
ってか氷帝で一番うまいじゃん。
だからなんか技を盗めないかーって考えながら見てるだけだ」
「それでも……」
長太郎はぶーっと頬をふくらませる。
「それでも、
なんか俺、
そういうのヤです」
ぷっ、俺は少し吹き出した。
なんだこいつ、いっちょまえにヤキモチでもやいてんのか?
けらけら笑いながらそのむくれた頬をつついてやろうと手をのばしたら、
嫌そうに軽く手で払われた。
その意味なく不機嫌な態度に、俺は少しカチンときた。
「なんだよ、そこまで機嫌そこねるほどのことかよ!」
「……。」
長太郎は顔をそむけたまま何も言わないでいる。
なんとなく険悪な雰囲気が二人の間を流れる。
「……あと」
とぼとぼ歩く長太郎が、口を開く。
「慈郎先輩とも、必要以上に仲がいいですよね。」
「……。」
思わず目を丸くする。
俺はさすがに驚きを禁じえなかった。
「はぁ?なんだよそりゃ!?」
「だって宍戸さん、
慈郎先輩とも、
よくつるんでるし、
試合のときだって、
いっつも見てるし」
「それだってただ慈郎のテニスが参考にならねぇかなって見てるだけだしよ、
慈郎とも幼馴染みなだけだ」
「……。」
俺は嫌な予感がした。
「まさか長太郎、
お前、俺は忍足とも、岳人とも、滝とも……
仲が必要以上にいいって言いてぇのか?」
「そうです。よくわかりましたね」
俺は溜め息をつく。
部活の疲れがどっと出てきた。
「お前の必要以上に仲がいいっつーのは、
世間一般の普通に仲がいいにあたるんだよ!
なんだよその、
必要以上って。
そんなこと言ったら俺、
誰とも見たり話したりできねぇじゃねーかよアホ」
「だって俺は――――!」
ずっと顔をそむけてた長太郎が、ガッとこっちを見る。
眼の縁は、うっすら濡れてた。
じわじわあふれる涙に色素の薄い瞳が揺れてる。
「俺は、宍戸さんに、俺のことだけを見ててほしいんスよ!」
強く拳を握りしめて力説する長太郎をあきれ顔で見ながら、
俺は嘆息まじりに言う。
「それは精神的な意味だけでか?
それとも生活面でもなのか?」
「生活面でもです!」
「悪い、無理だ」
長太郎のあまりにアホくさい要望をスッパリ切り捨て、
俺は歩く速さを速めた。
このタコ太郎め。
とうとうこいつは脳ミソまで一球入魂になっちまったらしい。
まったく、こいつの思考回路は一体
どんな変てこりんで奇妙キテレツな造りになってるんだか知れたもんじゃない。
覗いてみたいようなみたくないような
やっぱり恐くて覗き見るのは勘弁したいかんじだ。
スタスタ長太郎の前を歩きながら、溜め息をまた一つつく。
「それでも」
唐突に……そりゃもうびっくりするくらい唐突に、
長太郎は俺を抱きよせた。
心臓が跳ねあがる。
鼓動が早鐘のように鳴る。
「それでも俺は、宍戸さんに俺以外の人のことを見ていてほしくないんです」
そのつぶやきが、甘く俺の耳にひびく。
「だって……俺は、宍戸さんのことしか見てないから。
宍戸さんのことしか見えないから。
だから、
俺の視界に写る宍戸さんが
俺以外の人のことを見ていると――」
ふいに、長太郎と視線が触れあった。
色素の薄い瞳には、俺の姿が写っている。
「――俺は、こらえきれないくらい悲しくなるんです」
理屈や理論じゃなくて、
俺は直感的に、本能的に感じとった――――
あぁ、
こいつの何かが、
こいつのどこかは、
狂ってやがる。
その瞳には、
一抹の狂気がひそんでいた。
「俺は、宍戸さんしか見てません。
だって俺は、あなたのものだから」
低く、ぼそぼそとした声で長太郎はささやく。
俺はその言葉にただ戦慄している。
「俺の瞳に写るあなたは、
俺だけを見ていてください」
その狂気にもし名前があるならば、
『独占欲』の対義語、
『被・独占欲』とでも言うのだろうか。
「俺を、あなたのために存在するものにしてください」
耳元で甘くささやかれる言葉は、
まるで呪文のような、
呪詛のような響きだった。
「俺を、ヒトリジメして……独占して」
きれいな顔して、なんて恐いことを言ってきやがんだ。
背中には嘘寒い感覚が走る。
それはある種の恐怖というものなのかもしれないが……
なぜか長太郎をつっぱねることができない。
どうして離れられない、
どうして拒絶できないか、
わけが全くわからない。
ただ、俺は抱きしめる長太郎の腕に手をそえて、
静かにその狂気を見つめることしかできないでいた。
「俺を独占して」
長太郎は俺を抱擁する手をつよめると、
その形のいい唇を近付けてきた。
甘い吐息。
柔らかい感触。
そして、
何かを確かめるように、
長く深い口付けをしてきた。
俺はむらさきに染まる視界を、
ゆっくり閉じる。
あぁ、どうやらこれは、悔しいけど……
認めるしかなさそうだ。
その瞳の奥にひそむ狂気すら
愛おしいと感じてしまう俺も、
どこか、
狂っているらしい。
重なる唇を突き放せなかったのは、
つまり、
そういうこと――。
『独占欲』の対義語は、
『被・独占欲』
+++
分かりづらいので解説。
独り占めしてほしいって思ってる宍戸狂いチョタと、
無自覚にチョタ狂いな宍戸さんのお話(なんちゅう不親切な解説)
分からないよなー分かりませんよねー本文だけじゃ。
あー文才がほしかとです。
最後の一節、
なんだかありがちっぽくて
他のサイトさんとかでもう使ってそうな言葉だな(あわわわ汗)
おっかなびっくりに書いてる次第でありますよ。
07,06,02:UP
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