(あるいは迷路のど真ん中で2)
そこは、ごうごうと強い風が吹き抜ける迷路だった。俺はいつのまにかそこにぽつんと立たされていた。自分がどこから入ってきたかは覚えていない。ただ、目が覚めたらここにいた、といったかんじでいつのまにか俺はここにいた。上も下も右も左も、つるりとした白い壁に囲まれている。壁全体がぼんやりと明るいので、おそらく、今天地がひっくり返ったとしても俺は「地震だ!」とくらいにしか気づかないだろう。
ここが迷路であるならば、どうにか出口を探さないといけない。俺はここに出口がないことを知っている。だとしてもそれはあまり関係のない事実だった。迷路がある。ならば迷う。それ以外にとるべき行動はない。
ためしに風の向きを頼りに【出口】へと向かってみる。だが、右右左右、左右左左左、風はたえず向きをせわしなく変えていき、なかなか一定していない。風の向きが変わるたびに髪の毛が口に入りこみ、口のなかに広がる茶色い味が気持ち悪くてそのたびにベッと吐き出した。右右左右左、右右右右左。ベッベッベッベッ。しばらく辛抱して歩いてきたが、だんだん腹が立ってきた。風が変わるたびに気持ち悪い味を味わうはめになってすごく気分が悪い。まるで誰かから馬鹿にされているみたいでイライラする。あんまり無秩序に向きが切り変わるものだから、俺はいつしか風のことなんて無視して道を進むようになっていた。
迷路には、俺以外にも数名迷いこんでいるのをなんとなく知っていた。だが、誰がいるのか、どこにいるのかはまったくわからない。ためしに「誰かいるかー!」と叫んでみたが、のどがつぶれるほど叫んだところで風が声を掻き消してしまうのだろうと思って、断念してヒリヒリするのどを押さえながらまた歩きだした。骨折り損のくたびれもうけとはこのことだ。俺は不機嫌にベッっと髪の毛を吐き出した。
しばらく歩いて、一枚の薄い看板が落ちているのを見つけた。出口はこっち。と書かれている。ないはずの出口があると書かれているだなんて、面白そうだ。俺は看板をもとあったところに置き、矢印がさす方向へと歩きだした。さっきまで、曲がり角を曲がって数歩歩いてはまた曲がり角の繰り返しだたのだが、矢印の先に曲がり角はなく一本道になっていた。道はどこまでものびていて、果てが見えない。なるほど、たしかにこっちには【出口】がありそうな気がするな。
俺はとにもかくにも歩きだすことにした。どれだけ長い時間歩き続けただろうか。ひたいにしっとりと汗をかきはじめた頃、ようやく遥か彼方に終わりが見えてきた。
だがそこには出口はなかった。あるのはつるりと白い壁と、壁からとびだしているベンチのみだった。どこにもドアらしいものはない。触ったり、叩いてみたり、「開けゴマ!」と叫んでみたりもした。だが、どんなに正方形の壁を念入りに探ってみても、どこにもスイッチらしいものはない。押してへこむようなところもなければ、ベンチを引いても壁が開きそうな手ごたえはない。ただ、つるりと白い壁が存在しているだけで、それ以上もそれ以外もなかった。
むかつく、腹が立つ。懸命に歩き続けていたこともあって俺はかなり腹が立っていた。
ちくしょう、なにが出口はこっちだ!と思って俺はおもいっきりベンチを蹴った。そのとき、ギャア!と悲鳴みたいな声があがった。
俺は迷路からころりと吐き出された。なるほど、そういうわけか。俺は乱暴にベッと、髪の毛の味を吐き出した。