【準備段階でもう不安がいっぱい】


「日吉、おろしがね貸してくれない」
「おろしがねだ? なんに使う……って……」


俺はちょうど、次の時間から始まる調理実習のためにかっぽうぎを着付けているときだった。そこで文字どおり固まった。人のよさそうに笑う長太郎の手に持つヘンナモノを、俺はスサマジイ目で睨みつけている。


「気持ち悪っ!何だよその紫の未確認物体は!」
「にんじん」
「嘘つけ!俺は認めんぞそんな哀しそうな顔の付いた紫にんじんなんざ。気持ち悪っ」


やめやめ、おろしがね貸すのやめ。


「大丈夫だよ、すりおろしてしまえば顔なんて気にせず食べられるから」
「食用!?これ食用なのか!?もっとノーマルな食い物使えよ。だいたいこんな食材使ってできる料理って一体なんなんだよ」


長太郎は少し照れた顔になると、しまりなく笑いながら言った。


「お誕生日ケーキ」
「殺す気か!人が生まれたのと同じ日に殺す気なのか!ていうかにんじんの必要性ねぇだろ!」
「失礼だな、にんじんケーキを作るのには必要だよ。それになんだ、まるで俺が毒の入ったケーキを作ろううとしているみたいな言い方して」
「そう言ってるんだ。だいたいこんなイカガワシイ食材、何らかの毒性があるものと考える方が正当だろ」
「うー、そうか。じゃあ残念だけどこのにんじんは使えないか」
「当たり前だ」
「それならこれ、どうしよう。捨てるのももたいないし」
「捨てろ」
「食べ物に失礼だよ」
「捨てろ、速やかに捨てろ。四の五の言わず捨てろ。俺はそんなもの食べ物と認めない」
「でも」
「デモもストもねぇ、なにはともあれ捨てるんだ!呪われてるってその植物!」


名残惜しい目でにんじん(?)を見つめる長太郎は、嫌そうに眉をしかめた。


「何か別のことに使ってやれないかな」
「無理だろう。呪術道具以外にそいつの生きる道はないな」
「呪術……」


長太郎は急に晴れやかな表情になると、気に元気づいて言った。


「そっか、これ呪いに使ってやれるよね」
「誰か呪いたいやつでもいんのかよ」
「クラスメートの女子に若干一名ほど」


晴れやかに言うことでもないな。


「呪いたいだけならおろしがねを使わなくてもいい方法があるだろうが」


ていうか、このおろしがねは絶対に使わせたくない。気味悪いし、後味悪いし。


「もっと、こう、お手軽な。ほら、この前滝先輩が売っていた藁人形と五寸釘なら」
「あれは効かない」


買ったんだ。そして使ったんだ。

「ということで、おろしがねを使わしてくれよ。にんじんクッキーなら三分で出来るし。休み時間中に終わるよ」
「こ と わ る」
「どうして。ケチなこと言うなよ」
「そんなものをすりおろした後に使いたかねぇ」
「いいじゃないかよ」
「ことわる」
「使った後はちゃんと洗うから」
「ことわる」
「ねえ樺地、おろしがね貸して」
「ウス」
「ウスじゃねぇ!あっ、お前なに長太郎に、あ、こら、おろしがね、こ、この、わ」
「ありがとう樺地」
「ウス」


話を聞けよ二人!
にんじん(?)をそんなものに使ったら絶対おろしがね呪われると思うのだがしかし、止めるもむなしくみるみるうちに長太郎の手によりにんじん(?)はすりおろされていった。ろくでもないことににんじん(仮)から悲鳴が聞こえたような気がしたが……。
まあいいや。
樺地の助けもあり、どうにかクッキーはキツネ色のオイシソウなものに出来上がったのだが……中身の正体を知っている俺はその香ばしい匂いさえも恐怖に感じた。ていうか、樺地料理うまいなぁ。


「できた」
「本当に三分でできやがった」
「思ったよりもおいしそうにできた。日吉、味見する?」
「遠慮」
「言うと思った。樺地は?」


樺地はいつものように無表情で目をそらした。


「よし。じゃあこれを早速クラスメートの女子若干一名にあげてくるね」


やっぱりあげるんだ。


「ちなみになんでそこまでしてクラスメートの女子若干一名を呪いにいきたいんだよ」
「そんなの単純だよ」


長太郎は表情を恍惚と輝かせると、やさしげに言った。


「その人が宍戸さんの誕生日にプレゼント渡そうとしてたから。そのときに告白もするって言ってたから」


口元だけが、笑っていた。


+++


始業のベルが鳴ったので、長太郎は自分のクラスへと帰っていった。
それと入れ代わるように、滝先輩が走って俺たちを呼び止めた。


「樺地と日吉、鳳を見なかったか」
「滝先輩……あいつなら今さっきクラスに戻って行きましたよ」
「彼、にんじんを持っていなかったかい?」
「にんじん……らしきものなら持っていましたよ」
「それ、ヒイヒイ言ってた?」
「おそらく」
「それだ」


滝先輩はひたいを押さえると、ちいさく嘆息した。


「もしかしてあのにんじん(仮)、食べたりしたらまずかったですか」
「うん、少しまずい」
「毒だったんですか」
「いや、あれ自体は毒じゃないさ」


あーあ面倒くさいとつぶやきながら、滝先輩は頬をかいた。


「あれはね、惚れ薬の原料なんだよ。しかもかなり強力なやつの」


+++


「宍戸さん!」
「何だよ長太郎、おい今授業中だぞ」
「逃げて、逃げてください!」
「は?」
「ぼんやりしてましと、刺されますよ、殺されますよ、死にますよ!」
「はあ?」
「宍戸亮センパイ、あなたがいるから鳳クンがあたしに振り向いてくれないんじゃあ!お命ちょうだい、うりゃああ!!」
「はぁあ!?」


終(わっとけ)
+++


自分にはギャグセンスなんてないと再確認。
でも数ヶ月に一度は書きたくなる不思議。

そういえば妹が飼っていたリブリーの誕生日が宍戸先輩と同じだった。
名前はたしか『シュプル』
『シシド』じゃないんだ。

ちなみにあのにんじん(偽)の葉っぱ部分はおみそ汁に入れると美味しいらしいです。
だからどうした(笑)。
なにはともあれ、
てっしゅー。

07,09,22:UP すすろてっぱいの誕生日まであと一週間。
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