「ありゃりゃ?」

慈郎は首をかしげると、
音楽室のドアを静かに閉めた。

広い窓からいっぱいの光がはいりこみ、
机のない研きあげられたフロアにはたくさんのてりかえし。
小鳥が外で仲良くさえずっているような、
あたたかい平日の昼下がりの音楽室。

そこに、三つの長い影がのびている。

一つは学校のグランドピアノ。
もう二つは。


「ししどに長太郎?」


その呼びかけに気づいたか、
長太郎が本に落としていた視線をあげてこちらを見た。


「あ、慈郎先輩」
「こんなところで会うなんて奇遇だねー。二人はなにしてるのー?」


おれはねーサボりに来たんだよー。
と言おうと口を開きかけて、
しーっと長太郎に黙るように指示された。


「今宍戸さん寝てるんです。
だから慈郎せんぱい、あまり大きな声をださないでください」


長太郎は人指し指を唇にあてながらひそひそ声で言った。
眉毛が情けなくさがってら。
面白ーい。
慈郎はこくんとうなずくと、
なるべく音をたてないように宍戸のとなりに座る。


「二人はもうお弁当たべたわけ?」
「はい、さっさと食べて宍戸さんはさっさと寝ちゃいました」
「ほー。おれもついさっき教室で弁当食って、
今日の五時間目をここでサボリにきたんだー」
「えっ、サボりですか」
「うん。だから長太郎、
先生におれがどこにいるか聞かれても
何もいわないって約束してくれるー?」


慈郎も長太郎を真似てひそひそ声でたのむと、
両手を顔の前であわせた。
長太郎は少し困った顔をして、
宍戸さんにはないしょですよ。
と言ってOKしてくれた。


「ありがとー、さすが長太郎はやさCー」
「もし宍戸さんが起きてたら、きっと怒られましたね」
「だねー。きっと、
サボりなんて激ダサな真似すんじゃねぇぜ!
って激怒すんねー」


慈郎は眉間にしわをよせて怒鳴る宍戸を想像して笑った。
一方、今の宍戸は頭を長太郎の肩にあずけて、
かわいい寝息をスースーたてている。

とても気持ちよさそうで、
しばらく起きる気配はなさそうだ。
その無防備な寝顔をみて、
慈郎はふふっ、と軽く笑った。


「寝てるとかわいいのに、起きてると辛辣だよねーししどって。
なーんかコーユーの見てるとイタズラしたくなっちゃうなぁー」
「くれぐれも起こさないでくださいね慈郎せんぱい」
「うーい」


とは言いつつも、
なにかやらかしてやりたいと思ってる自分がいるのはどうしたものやら。
手始めに宍戸の短い髪を指に巻きつけてあそんでみる。


「もう、せっかく二人っきりだったのに。
慈郎せんぱいって、俺たちがここに来るときにかぎって
いつもの屋上じゃなくて音楽室に昼寝に来ますよね。
なんですか、何かの嫌がらせですか」


長太郎がはらはらした様子で
こちらをうかがい見ながら言った。
いつおれが宍戸になにかやらかしたりしないか気がきでないんだろう。


「さぁね、ししどと長太郎が音楽室に来たくなったときに
偶然おれもここに来たくなっちゃっただけさ。
確率の問題だ、
仕方ないねー」


なんて軽いうそをついてみたり。
長太郎は、ひどい人だ、
とぽつりとつぶやいてまた視線を本に落とした。

その時、

ピーンと、

頭の上空を旋回している豆電球に光がついた。


「ちょーたろーちょーたろー、ちょっといい?動かないでねー?」
「う、え?何するんですか」
「いいからちょっとだけ大人しくして。
おれ、今すげー面白いこと思いついちゃったんだー」


長太郎は慈郎の恍惚とした表情に
ものすごい不安をいだきつつも、
慈郎の言うとおり大人しく黙った。
慈郎は長太郎の肩に体重をあずけている宍戸の体を
少しずつ、少しずつずらして、そーっと宍戸の頭をおろす。

なんだなんだ、
いったい何を始めるつもりなんだ、
と長太郎ははらはらしながらその様子を見つめる。
宍戸は呑気な顔して起きる気配はまったくない。


「はい、かんせー。長太郎の膝枕ー」


慈郎はいたずらっぽく笑い、小さくピースした。
宍戸の頭は、長太郎ののばした膝のうえにそーっとおかれたのだ。
半分座りながら寝ていた体勢が、
横になったことで寝るのが楽になったのか、
宍戸はさらに弛緩しきった無防備な表情で
長太郎の膝のうえで気持ちよさそうに寝息をたてている。


「……こんなこと、
宍戸さんが起きたらどれだけ怒られることやら」
「だね、レアだレアだ。記念に写メっとくかー」


慈郎は制服からケータイを取りだすと、
宍戸の安らかな寝顔に狙いを定めた。



ぴきゅいーん☆



かわいい効果音が
けっこうびっくりするほど大きく鳴りひびいたが、
宍戸にはまったく起きる気配はない。


緊張してない、宍戸の安心しきった安らかな寝顔。


きっとこのかわいい寝顔もこの膝枕の事実を知れば、
眉間にしわをよせて殺気がほとばしるほどにみなぎる
コワイカオへと変貌してしまうのだろう。

そう思うと、長太郎はなんだか寒気がした。

それを察するかのように、
慈郎は長太郎の顔をのぞきこんで、唇に人指し指をあてて言う。


「なーいしょ、だよ?」
「え?」
「二人だけのないしょ。
ししどがこのこと知ったらさ、おれも怒られちゃう。
怒られるのこわいからヤだなー。
だから、このことは二人だけのないしょにしとこ?」


長太郎は慈郎の言うことにこくりとうなずき、
自分も唇に人指し指をあてた。


二人は顔を見あわせて


「「ないしょ」」


いたずらっぽく笑いあった。




特別なことなんて別にない、平凡な日常の連続の一部。
けれど、そんな一瞬一瞬にだって、
気がつけばいつでも優しい光はあふれている。
優しい光にみたされた、ひだまりの音楽室で、
三人は寄り添いお互いの体温を感じてた。



音楽室には、
よりそう三人をつつむように、
あたたかいうたが流れてる。



うたの名前は――




【ひだまりのうた】



+++


ヤマもオチもへったくれもないほんわか昼休み。若干ほんわかしすぎ気味かな。

せめてヤマはつけようよ(汗)。


鳳宍小説なのに、宍戸さんは今回一言もしゃべってないな(汗)。
それでもこれは鳳宍と言いはります。ええ、これは鳳宍です。鳳宍ですとも。誰が何と言おうとも、鳳宍だと言い張ります(開き直った)。

今回はじろちゃんを小悪魔にするのを特にがんばった。

ちゃんとじろちゃん小悪魔になったかなー?

……なってない?
これじゃ単なるクソガキだって?



……ちょっと出直してきます(泣)。




07,06,02:UP



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