「宍戸さんお疲れ様です!!」



ガクンッ

突然膝に強烈な重力がかかる。背中にとてつもなく重い物体がおぶさっている。



「俺もうクタクタですよ。さぁ、早く着替えて帰りましょう!」



背中を見ると、額にほどよく汗をかいて満面の笑みを浮かべて子犬のようにじゃれついている長太郎の顔があった。



「バッカヤロウ、お疲れ様つってるそばから疲れさすな!重い!全体重かけるのはよせ!!」
「いいじゃないですか、部活棟まで運んでくれたって。筋トレだと思えば全然苦にならないでしょ。」
「無茶ゆーな降りろ!今すぐに!!」
「………ジロー先輩のマネ………ぐぅ」
「寝るなコラっ!!」
「いいじゃないですかー今日くらいは。俺、今日はホントぐったり疲れてるんですよ。」
「はぁ?俺と同じ練習メニューこなしてるくせに何言ってやがんだ。」
「今日体育の授業が持久走だったんです。それで授業中ずっと走りっぱなしで更に部活もあってでもうクタクタの三乗なんです。ということで、部活棟までお願いします。」
「ハッ…体育と部活ごときでへばるようじゃ全然なってねぇな。激ダサだぜ。俺だって今日の授業で持久走あったが何とも思わないぜ。ほら泣き言ゆうな。降りろ。」
「えー。……今日くらいはいいじゃないですか。」
「またそれか」
「今日くらいは、今日だけは、今日オンリーは!宍戸さーん!!」
「……。」



俺は溜め息をついて、何も言わずに背中におぶさるデカイ後輩をしょいなおした。



「わっ、ありがとうございます宍戸さん!!」



素直に元気に明るい声で子犬のように喜ぶ長太郎の声が耳をくすぐる。俺は足に力を入れた。



「おっし。筋トレ、ラスト一本!」



やるからには全速力で、走り出した。



「宍戸さんストップストップ!俺の足引きずってます引きずってます!!」
「うるせぇオメーがデカイのが悪いんだろ!嫌なら縮め!あるいは切れ!!」
「そんな無茶苦茶なぁ!」



重い重いと思いながらも、長太郎を背負いながら走るのはそんなに苦にはならなかった。子犬のように楽しそうに笑うコイツを背中に感じているのは別に嫌いじゃないしな。










その時、引きずる長太郎の足にもつれてバランスを崩した。



「おわ。と。」
「し、宍戸さん!?」



体がグラリと傾く。俺はたまらなくなって目をつぶる。




殺那、体は宙に浮き、そしてすぐニュートンの林檎と同じ力に引っ張られ、地面に吸いよせられた。




長太郎と俺は、どうとコートに倒れこんだ。




「長太郎、悪ぃ転んじまって」
「ごめんなさい僕重すぎましたか!?足が邪魔でしたか!?無理言ってすいませんでしたごめんなさい!!怪我はないですか!?さっき凄い勢いで俺の下敷になってましたけど大丈夫ですか!?内臓潰れてません!?頭潰れてません!?血は出てませんか!?」
「……とりあえず大丈夫だ。お前も怪我ねぇか?」
「すいません俺が重すぎて俺が邪魔すぎて。どこか擦りむいてませんか!?怪我してませんか!?大丈夫ですか!?すいません、ごめんなさい!!腕は大丈夫ですか!?足は大丈夫ですか!?テニスできますか!?俺、宍戸さんに怪我させるなんて、何て取り返しのつかないことを!!あぁ、どんなに謝っても謝りきれません!!」
「あー人の話を聞け」



長太郎は混乱しきった様子であれこれ謝罪の言葉をぶつけてくる一方で、俺の話を全く聞こうとしていない。長太郎は、倒れた時の体制のままで俺の上から心配してきている。どうしたものかな。重い。早く俺の上からどいてほしいんだが。








+++







運悪く、転んだ場所がブラシがけをした直後のきれいなコートだったため、俺達は跡部からみっちりおとがめを食らって、ブラシがけをもう一回やりなおすよう命令された。



「悪ぃな長太郎、面倒臭いことになっちまって」
「いいえ、元はといえば俺が無理なこと言ってたせいですから。」



やっと落ち着きを取り戻した長太郎は、子犬の笑みを浮かべながら楽しそうにブラシを引きずっている。
さっきまであれほど疲れた疲れた文句を言っていたヤツが嬉しそうに面倒事を片付けている姿には少しひっかかるものを感じるが、まぁ何にせよ、長太郎は機嫌損ねていないからいいに越したことはないか。



「おい長太郎、トロトロ歩くな。さっさと片付けて帰るぞ。」
「えー。さっさとは嫌ですよー。もっとゆっくりゆっくり行きましょう?俺疲れてるんですからー。」



嬉しそうにゆっくり歩く長太郎を不思議に思いながらも、まぁ長太郎も疲れてんだし、調子合わせてやってもいいかと思い、長太郎と歩調を合わせてゆっくりと体育倉庫に向かうことにした。
長太郎はやけに機嫌良さそうだ。





色素の薄い瞳を夕陽にらんらんと輝かせ、風に踊る銀髪には紅い照り返し、そしてやはり、口元にはあの笑顔。長太郎は子犬のように、明るく無邪気に笑うのだ。






俺はその笑顔を、不思議に思いながら眺めていた。








+++








「それじゃ宍戸さん、さよーならー」



駅で別々のホームに分かれる時、長太郎は大手をブンブン振って別れた。なんだあいつ、元気あんじゃねーか。結局、学校から駅までの帰り道も、長太郎はもうダメだとか歩けないだとかぬかしていたから、半分寄りかかられる形でゆっくり歩いて帰ってた。もう歩けないとか言ってたから少し心配していたけど、何か大丈夫そうな様子を見て安心した。



通勤電車で運よく座席に座り、背もたれに体重をかける。急に肩が軽くなったような気がして不安になる。背中が寒い、何もない背後から嫌な虚脱感が広がる。






日はとっくに沈んだ。





後ろの窓から月明かりがさしこむ。





背中の熱が月明かりに染まって冷めていく。





俺は思わず身震いをした。













+++








何で背中が寒いんだろうか。昨日は風呂入っても寝床についても寒気はとれなかった。そして背中は今もぞくぞく寒いままだった。風邪でもひいたか?吊革を凝視しながらそんなことをぼんやり考える。



「宍戸さん、おはようございます!!」



ズシリッ



通学路の途中で、いきなり大きな重力に捕まった。バランスが崩れて転びそうになるところを、すんでのところで踏みこたえる。



「おい長太郎、いきなり飛びつくな!」



反射的に辺りを見回す。


大丈夫だ、早朝のためか周りには人は誰もいない。



背中を見なくても、そこにあいつがいることはわかる。だけど、あえて背中を見る。



「朝に会うなんて奇遇ですねー!俺もう嬉しくなっちゃってつい飛びついちゃいました。」
「ばかやろう、そんなことでいちいち飛びつかれたらこっちの身がもたねぇ。お前のタックルの攻撃力はハンパなくでかいんだからな!?」



長太郎は、顎を俺の肩に乗せておぶさっていたから、後ろを向くとすぐそこに長太郎の顔があって軽く驚いた。目と鼻の先とはまさにこのことだ。
えへへと笑う長太郎は、今日も訳もなく機嫌よさそうだ。



俺は思わず目をそらし、体の大きな後輩を引きずりながら歩き出した。



「あれ?俺降りなくていいんですか?」
「なんだ、嫌なら降りろ。重い。」
「いや、嫌じゃないけど、いつもなら宍戸さん降りろ降りろってうるさいから……――。」



はたと長太郎は何か考え込むと、俺の顔を覗きこもうと身を乗り出してきた。


俺はとっさに長太郎とは逆を向く。


今長太郎と顔を合わせたらダメだと思った。口元の筋肉が緩みかけている。顔を合わせれば危ないと思った。




「……――。」




長太郎は、えへへと笑うとまた前を向きなおした。




長太郎の平熱は高い。少なくとも、俺よりかは高い。そういえば、さっきまで背中に広がっていた悪寒が今はない。すごく暖かくて、なんだか更に口元が緩む。














ガブリ













「………?」




俺の首筋を、子犬の笑顔を浮かべた長太郎が普通に噛んだ。





「…………。」





……噛んだ。




あまりに予想外のことに、時間が止まった。目を見開き、押し黙り、ただ自分の首筋をガリガリかじる長太郎を見つめ、やがて痛覚が神経を伝わり脳にたどりつき。




「ひ。う。ああぁぁああ噛んだああぁあ!!」



暴れ、なりふり構わず長太郎をひっぺがして投げ飛ばした。背中から落ちた長太郎のどしんという衝撃音は、誰もいない通学路にこだました。



「あだっ」
「いってーな何しやがんだ長太郎!!」



どうしてそんなに怒られるのか分かりませんと言いたげなキョトンとした顔で長太郎は俺を見上げる。



「どうして噛んだ!?なぜ噛んだ!?いって軽く血が出てんじゃねぇかコレ!?」
「さー、なんとなく……目の前に宍戸さんの首があったから?」
「殺す気か!?殺す気か!?なんとなく俺を殺す気か!?首筋をまのあたりにして狩猟本能に目覚めたか!?お前の前世は肉食動物だったのか!?戻れ狼少年!人類に戻ってこい!!ホモサピエンスに戻ってこい!!」
「人類ですよ、ホモサピエンスですよ。」



長太郎は困ったように笑いながら制服を払うと。



「すいませんでした」



と、一言だけ言って立ち上がった。



「謝るくらいならやるな!!」



口かぱっと開けて叫んでみたが、長太郎は、はい。と短い返事をしただけで、別に悪びれてる様子はない。俺はなんとなくそれが気に食わなかった。



長太郎は、さも当たり前そうにまた俺の肩に腕を乗っけてきた。
俺は、すかさずそれを厳しく振り払う。





「もう乗っかんな」



重く低い声で言い、背後にいる長太郎を横目でギロリと睨む。




すると、長太郎のほころんだ口元はみるみるうちに悲愴に歪み、血色は一瞬にしてサーッと消え失せ。




「えっ………。」




子犬の笑顔はたちまち青白く塗り潰され、無邪気な光をともした瞳は絶望に似た色に染めあげられた。



あまりの落ち込みようにこっちもびっくりする。言った後にしまったと思った。



「し、宍戸さん…ご、ごめんなさい。そんなに…怒ってるんですか!?あ。あの。その、なんか…―――すいません、そりゃいきなり噛みつかれたら、いい嫌ですよね。あ。う。何でそんなことが、分からなかったんだろ。サイテーですね、俺。なんてバカなんだろう俺。反省してます、もうやりませんから、もう二度とやりませんから、どうか、お。怒らないでください宍戸さん……―――!!」
「……。」



長太郎は必死の形相で謝ってきた。その謝りっぷりを見て、何て返せばいいか戸惑った。俺、そんなに謝られるほど酷いことしたか?ただ、背中に乗るなっつっただけだろ?何も近寄んなっつったわけじゃねぇんだ。そこまで必死になる理由が分からねぇ。



「………あー。」



俺は後頭部をかいた。



「だから、そのな……――つまり―――――」



長太郎から目をそらし。



「…怒っちゃいねぇよ。ただ、重いから乗んなっつっただけだ。金輪際禁止したわけじゃねぇよバカ」
「……。」



言い切ると、長太郎のうなだれた背中はピンと伸び、情けないハの字の眉もピンと伸び、目には再び無邪気で明るい光がともり、頬には温かい色が戻った。


「ほ、ホントに、怒ってないんですか!?」
「……まぁな」
「ホントですね!?俺を気遣ってとかじゃないですよね!?」
「ま、まぁな」



長太郎は、今にも小踊りしかねないほど喜びの色を顔に浮かべている。


それを見て、急に自分が今言った言葉が気恥ずかしいものに思えてきた。



「おい長太郎!さっさと学校に行くぞ!オメーのせいで無駄に時間くった!!」「あ。う。はい!」



長太郎は俺の横に並び、俺達はさっさと歩きはじめた。


長太郎はなぜか俺の顔をじっと見ている。



「さっきからジロジロなに見てんだ」
「あ。いや、宍戸さん、もしかして風邪ひいてますか?さっきの怒鳴り声、鼻声気味でしたよ?」
「そうか?」
「はい」



えへへと長太郎は笑った。何故かすごく嬉しそうだ。



「でも部活は出るんですよね」
「たりめーだ、たかが風邪の引き気味ごときで休めるか。」



長太郎はいよいよ嬉しそうに笑みをこぼした。



「何笑ってんだよ」



長太郎の腹を肘で小突く。



「やー、部活の間宍戸さんがもし背中寒いと感じとき、俺が暖かくてあげられたらなぁーと思ってー。」
「……。」
「ダメですかー?」
「……。」
「ダメですかね」
「……。」
「すいません、ダメですよね。ついさっき怒られたばかりなのに。今の聞かなかったことにしてください。言ってみただけですから……。」




しゅんとうなだれて、長太郎は情けなく眉を下げ、がっくり肩を落とした。激しい落胆の様子に、なぜかこっちまで、喉がきうっと締め付けられた。

















ポリポリ自分の頭をかいて。










ん―――っと考え込む。















「……………………。……………――――――。―――――…………

もう
噛まねーなら……」



いいんじゃねぇか。語尾をわざと聞き取りにくいようにゴニョゴニョと濁しながら、自分でも分かるくらい、ぶっきらぼうにそれだけ言うと、自然に熱が顔に集まった。



「……はい!」



長太郎は打って変わって明るい声音でいつもの短い返事をする。








首元では、踊るようにクロスが光っていた。










+++








「15分31…32…33…34」



テニス部のマネージャーの前を忍足が走り抜けた。



「忍足先輩15分34秒、はいお疲れ様でーす。」



マネージャーはストップウォッチから目を離し、手に持つ記録ボードに忍足のタイムをサラサラ記入する。



忍足は俺が座ってるベンチにどすっと座り込んだ。



「はぁしんどいわ。流石に体育で持久走やった後のラニングはキツイもんやなァ。」
「そうか?」
「宍戸、足だけはごっつう速いかんなァ。これくらいは楽勝なん?」
「別に」



その時、鳳先輩あと一周でーす。とマネージャーの間伸びした声が聞こえた。



「わんこはまだ終わっていーひんようやな。」
「あァ。」



その時、二月の冷たい風が背中を撫でた。ゾクゾク背中を這う悪寒に身震いし、特大のクシャミをして、クシャミをして、クシャミをした。



「なんや宍戸、風邪でもひいたんか?」
「…あァ、多分な。」



その時、目の前を通りすぎる長太郎がピクリと反応し、今のペースで十分キツそうなのにいきなり走るスピードを速めたような気がした。



「具体的にはどういった症状なん?」
「ん。背中がゾクゾク寒くて、喉がイガイガして、クシャミが出る……あと頭が重い。」
「そら完璧な風邪の症状やな。練習休まへんの?」
「ふざけんな。風邪ごときでいちいち休んでられっか」
「そらまァ宍戸らしいっちゃ宍戸らしい意見やがなァ、風邪はひきはじめが肝心やで?おおごとにならんうちに休んどきいや。それが賢明な判断ちゅうもんやで?」
「うるせぇ、そこまで言うならジャージ貸せ。寒い。」
「あかん。今は走った直後やから暑いが、どうせすぐに冷えるんや。俺も寒いのは嫌やかんな。」
「けっ。薄情者が」



日向先輩お疲れ様でーすと言うマネージャーの声に反応して、忍足は立ち上がった。



「岳人が来たけん、俺は先コートに行っとるわ。ほなな」
「ジャージ置いてけ」
「あかんちゅうに。自分のわんこにでも背中温めてもらい」



言って、忍足は足早にその場を立ち去った。



「けっ。薄情者が」



寒さに体を丸めながら、忍足の背中をキッと睨む。



どれほど待っただろうか。時計を持つ習慣がないから正確な時間は分からないが、正レギュラーの奴らがほとんど皆走り終わった頃に、長太郎がやっとラニングを走り終えた。



「ぜぇー…はぁー…ほん、とに…すいません…はぁー、はぁー。おま……ぜぇー……ちょっと……お、たせ…しま……ぜぇーはぁー…した……―――。ちょっと…はぁー…た、い…く、まして…はぁー、はぁー…ぜぇー、……、…ちっ…ちょっと……つか……ぜぇー……れ、が……―――はぁー、しし、ど……さん……ぜぇー……せ、な……ぜぇー……か……さむ、……ぜぇー……く、な……はぁー………い、です、か…………。」
「とりあえず息整えろ。何言ってんだかさっぱり分からねぇ。」



長太郎は俺の隣に力なく座ると、二三回深呼吸をして。



「…はぁー…はぁー…ほん、とに…すいません…はぁー、はぁー。ぜぇー……ちょっと……おまたせ…しま……ぜぇーはぁー…した……―――。ちょっと…はぁー…たいく、あり……まして…はぁー、はぁー…ぜぇー、……、…ちっ…ちょっと……つか……ぜぇー……れ、が……―――はぁー、」
「慌てんな、さして変わってねぇじゃねぇか!ちゃんと話聞いてやっからちゃんと息整えてから言え。」



なだめるように長太郎の背中をさすってやったが、長太郎は何か言いたそうに首を横にブンブン振った。



「ぜぇー…はぁー…ちが、…。しし、………ぜぇー…どさん……の、せ…………なか……―――。ちょっと…はぁー…さむ…く、ない…はぁー、はぁー…ぜぇー、……、…で………です、か……ぜぇー……く、しゃ……―――はぁー、みが………。」
「……。」



……ところどころ聞き取れない言葉があったが、――長太郎が言わんとしている言葉は、しっかり伝わった。



だけど。



「……はァ?息が荒すぎて全然聞えねぇんだけど。こんぐらいでバテるようじゃ激ダサだぜ長太郎!」



こんなことを言う自分は一体何なんだ。



「……そう、ですね……はは……」
「おら、さっさとコートに入って練習すんぜ。さっさと立って歩…………へ……えっくしょい!!」



長太郎はピクンと反応した。



「………せなか………」
「はァ?」
「……寒く、ない、ですか?」















「寒い!寒いからオメーこっち来い!」



言って、自分の後ろを指差す。



「……はい!」




長太郎が背中に乗るのを確認して、少ししょいなおす。



たったそれだけで、背中で凝り固まっていたものが、温かな熱によってじんわり溶けていく。



そのくすぐったい感覚がやけに心地よかった。



「ホント、長太郎は平熱高いから寒いとき助かるよなぁ」
「えっ………俺、平熱高いですか!?」
「あァ。長太郎が乗っかる背中はいつもすげぇあったけぇぜ。お前ってホント平熱高いよな。」
「……。」



背中から、なぜか長太郎のあせりと驚きの気持ちが伝わってきた。



「………そんなことないですよ」





小さく、似合わない儚げな声で長太郎はつぶやいた。





だがそれはあまりにも小さな声だったので、俺には聞き取れなかった。





なんか言ったかと聞き返したが、長太郎は首をブンブン横に振るだけで何も言わなかった。




















“いきなり宍戸さんの首に甘噛したわけも、







些細なことで一喜一憂するのも、







背中に乗るとき体がいつもより熱くなることも………――――









宍戸さんには秘密です。












ホントのキモチは


















「ないしよ」にしておきます。”











長太郎は宍戸の肩に顔をうずめると、誰も見えないように無邪気に笑った。









それはまるで、子犬のように………――――。








Fin






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忍足の関西弁、ところどころニセモノかもしれない……。
関西人さん、ゴメンナサイ!!




07,03,26:UP





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