昼休み、俺は人で賑わう廊下をただひたすら疾走している。
必死の形相で走り抜けていく俺を不思議そうに見ている視線を背中に感じるが、この際気にしちゃいられない。
息を荒げて汗をかきながら、廊下をトップスピードで駆け抜け、階段を三段飛ばしで駆け上がる。
「宍戸さんすいません遅くなりました!」
屋上の錆びて重くなったドアを勢いに乗って蹴り開ける。
「おう。遅せぇぞ長太郎。」
宍戸さんは柵に寄りかかり、不機嫌そうに足をぶらつかせて待っていた。
「一体いつまで人を待たせたら気が済むんだ。」
「はぁー…はぁー…ごめんなさい…」
「いくら間が抜けているお前でも昼休み半分終わるまで屋上に来れねぇ時は連絡の一つくらいよこすべきだろうがよ。お前のそのケータイは何のためにあるんだ!飾り物か!?いくら便利なケータイも使わなきゃ意味ねぇだろ!!」
「ぜぇー…はぁー…ほん、とに…すいません…はぁー、はぁー。ちょっと…はぁー…い、ん…あり、まして…はぁー、はぁー…ぜぇー、それ、で…ちっ…ちょっと……ゲホッ」
「とりあえず息整えろ。何言ってんだかさっぱり分からねぇ。」
俺はゆっくり深呼吸をして、息を十分に整え、しゃべりだした。
「今日ですね、委員会の呼び出しがあって会議室に集まってたんですよ。そしたらすぐに終わると思ってたその会議はダラダラと延びていくし、会議中だからケータイは使えないしで。」
「で、その会議が終わるまで結局何も連絡出来ずじまいで、さっき急いで来た。ソーユーことだな?」
宍戸さんは鼻で笑うと、切れ長の黒目を細めて、激ダサ、と目で言った。それはとても冷ややかな眼光だった。
「モタモタしてっから、先に弁当食っちまったぜ。ただでさえ三年の俺は部活引退しちまったから、オメーと会う機会少ねぇのによ、その上昼飯も一緒に食えねぇとなると、もう会う機会は壊滅的じゃねーか。ま、それでオメーがいいなら俺は何も言わねぇけどよ。」
「え、えぇ……そんな宍戸さん、キツイこと言わないでくださいよ。」
刺さるような鋭い視線を茶化すように笑ってみるが、宍戸さんにそんな目で見られると、正直泣き出したくなるくらい辛かった。
「…せっかく俺は鳴る腹を我慢して宍戸さんとお昼食べようとしてたのに。先に食べちゃうなんてひどいスよ。」
「あれ?オメーももう飯済ましたんじゃなかったのか?」
「まだ食べてません!」
「………。」
宍戸さんは不思議そうに俺を見ると、俺の手を指差した。
「じゃあ、何で弁当持ってねーんだ?」
「……。」
自分の両手を見、宍戸さんを見、もう一度自分のカラッポな両手を見た。
「………あれ?」
顔からさーっと血の気が引いていく。
「……会議室に置いたままだ。」
「激ダサ」
宍戸さんはわざとらしく溜め息をつくと、さらに柵に寄りかかった。
力がかかる柵は不安定なきしみ声をあげる。
「オメーなぁ、抜けてるにも程があんだろ。さっさと飯取りに会議室に戻れよ。」
「いや……それが。」
俺は自分の頭をかいた。
「会議……途中から抜け出してきたから、今戻ったら、怒られてまた会議に捕まっちゃうんです。」
「……。」
宍戸さんは目を丸くした。
「……会議、終わってから来たんじゃなかったのか?」
「はい……だって、あれ以上無駄に俺の昼休みを潰されたくなかったんスよ。ただでさえ会う機会少ないのに……。」
「……。」
宍戸さんは無言でズンズンと俺に歩み寄ると、突然頭を本気で殴ってきた。宍戸さんの快心の一撃はかなりいい音を屋上にとどろかせた。
「――――!!」
声にならない悲鳴をあげて、俺は優しくない先輩を見た。
「い……――ァ。な、なにするんですか!?」
「ほんっっと、オメーはバカだな!!自分の首をキレーーに自分で絞めやがって。そこまで間抜けだとある意味傑作だぜ、俺の人生ベスト3に入るくらいの激っっダサぶりだな!!拍手してやるよ!!おめでとう!!」
宍戸さんは肩をわざとらしく俺にぶつけると、ドアの中に入っていった。
「オラ、早く来いよ。弁当取りに行くんだろ?さっさと行くぜ!バカで間抜けでノーコンな長太郎は、さらにノロマの称号が欲しいのか!?」
「あーもう待ってください、行きます行きまから!!」
俺は慌てて宍戸さんの背中を追った。
階段の窓ガラスに、見えない宍戸さんの表情が写った。強気で勝ち気な先輩は、何故か嬉しそうに笑っていた。
俺の優しくない先輩の、愛情のカタチはいつも屈折していて分かりにくい。
[急いでくれて、サンキューな。]
FIN
07,03,26:UP
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