【選択肢】
「長太郎、お前に二つほど選択肢をくれてやる」
低い、他人を圧倒し畏怖させる冷徹な声。宍戸は長太郎の部屋のベッドの上にあぐらをかきながら、目の前に正座する長太郎をねめつける。
「選択肢その1、今すぐ素直にそのタオルを俺に渡して金輪際俺の私物を盗まない。選択肢その2、喧嘩になって戦ってすぐに負けて俺がタオルを奪って金輪際俺の私物を盗まない。さぁ選べ。ちなみに1を選ぶとみんな幸せだぜ?」
長太郎はまずそうに目をそらすと、ちらと横目で自分のうしろに隠したブツを見る。ところどころに泥がついたタオル。ごくありふれた、無地のタオルだ。だが、二人がこんなに険悪な雰囲気になるほどのもの、もちろんそれが普通のタオルであるはずはない。
話は少しさかのぼる。午後の部活が終わり、宍戸は長太郎の家に遊びにくるという、ごく普通の中学生が放課後にとるごく普通の行動をとっていた。長太郎の部屋に案内され、お茶をとってくると言って彼が席をはなれた時だった。なにもすることがなくて、宍戸はベッドに腰掛け、きょろきょろと部屋の棚や机や電子ピアノなどを見まわしていた。すると、宍戸はベッドの隅に丸まっている、薄汚れたタオルを見つけた。ただの薄汚れたタオルなら宍戸だってそんなに気にとめたりはしない。だが、ろくでもないことに、そのタオルの見えやすい位置に、『シシド』とにじみかけの黒ペンで文字が刻まれていたのだ。ちょっと待て、宍戸はこめかみを押さえる。長太郎にタオルを貸したことならあるが、長太郎に自分のタオルを持ち帰らせた覚えなんてなかった。貸して彼が使い終わったら、すぐに自分の手元に返してもらっていた。この家に自分のタオルが存在しているなんて、まったくおかしなことなのだ。
・・・いやでも、もしかしたら長太郎は、俺のタオルを間違えて持って帰ってしまったのかもしれないな。宍戸はつとめていい方へいい方へと思考をめぐらす。あいつはあれで結構うっかりしているところがあるから、これだってきっと自分のタオルと間違えて俺のタオルを持ち帰ってしまっただけに違いない。どうしてベッドの隅に置いてあるのかは疑問だが、それはあまり考えないことにしよう。そう頭のなかで結論づけたとき、ちょうど長太郎がお茶のつがれたコップを二つ持ってきた。
長太郎は宍戸の手に握られたタオルを見ると、『あ、やべっ』といった顔をした。宍戸の額に、切れてはいけない血管が浮き出る。ちょっと待て。何が一体『あ、やべっ』なんだ。たかが間違えて持ち帰ってしまったタオルだろ?なんで非常にまずそうな顔して俺の手元を見るんだよ。
「宍戸さん、そのタオル――――」
「ん?」
宍戸はつとめて笑顔で返事をする。頭に浮かぶよからぬことを一生懸命振り払いながら、切れそうな額の青い血管をひくひくさせて、長太郎の次の言葉を待った。
次の瞬間。
長太郎は信じられない速度で宍戸の手からタオルを奪い取ると自分の後ろに素早く隠した。遅れて、コップが落ちる音とお茶がこぼれる音が二回、カランと鳴る。
宍戸は唖然とした。ちょっと待ってくれ。頼むから、視認が困難なほどの速度で動かないでほしい。頼むから、そんな化け物じみた動きをしないでほしい。しかもその速度を、こんなところで出さないでほしい。こんなところで、こんな・・・ところで――――。
宍戸の肉体は完全に硬直してしまったが、その間にも脳みその内部では超速の思考が駆けめぐっている。
さて、この長太郎の行動から推測される現在の状況を羅列してみよう。
1,あのタオルは俺のものではなく、本当は長太郎のもので、彼が自分でそのタオルに『シシド』と書いただけである。ずばり長太郎の趣味だ。
2,長太郎がなぜだか殺意に目覚めて、あのタオルは実は犯行に使われた凶器である。
3,盗んだ。
状況把握完了。
結論・・・――――。
「1でも2でも3でも!なんにせよ最悪だコノヤロー!」
叫ぶと酸欠なのか、頭がくらくらする。
枕があるなら殴りたかった。ガラスがあるなら割りたかった。ちゃぶ台があるならひっくり返したかった。
だが、とりあえず人の家のものに暴力をふるうのはいかんと判断した宍戸は、とりあえず長太郎の顎をえぐるように下から強烈な一撃をくわえたあとさらに顎をえぐるようにして一撃をくわえ、嘘みたいに宙に浮いた体に痛烈な蹴りをいれて彼を動けなくした。
それが、つい数分前の話。
+++
「うーん」
長太郎はしばらく首をかしげて考えこむと、意外な言葉を口にした。
「俺としては、はい、まぁ、別にこのタオルを宍戸さんに返しちゃってもいいですよ。このタオル、もうだいぶ匂いが薄くなっちゃっているし――――条件次第なら別に返してもいいですよ」
「お、長太郎にしてはなかなか利口な意見だな。話がわかるじゃないか。で、条件ってなんだ」
宍戸の言葉に長太郎は、何かをたくらむように笑う。
「じゃあ、こうしましょうよ。俺は宍戸さんにこのタオルを返しますから――――宍戸さんのバッグに入っている、今日使いたてのタオルをください」
ぶっちんと、宍戸の切れてはいけない血管が切れた。そして怒りを拳にのせて、宍戸は長太郎をひどいめにあわせた。
ひどい目の内容は・・・以下繰り返しなので省略。
「図にのるなこの変態!おまえに何か得る権利なんてあるわけねぇだろ!貴様に可能なことは、殴られてタオルを渡すか、殴られないでタオルを渡すかの二択だ!おまえに交渉する権利なんざねぇ!」
鬼だ。鬼だ。鬼がいるよー。ひどいめにあわされて、ボロ雑巾のようになった長太郎は、かろうじてタオルを死守しながらつぶやく。長太郎は、これ以上の抵抗は真剣に死活問題に関わるという懸命な判断をくだして、涙をのみながら宍戸にタオルを渡した。分かればよし、といった風に見下しながら宍戸はタオルを受け取ると、それを自分のバッグに乱暴につっこむ。
だが、もともと一杯に中身が入っていたバッグは、新たにタオルを入れられるほどの空き容量がなかったらしく、チャックが途中でひっかかって閉まらなくなった。
宍戸はしばらく、閉まらないチャックと格闘していた。
「――――・・・それじゃあ、次の二択です」
「あ?」
バッグのチャックに手間取っていた宍戸は、長太郎がいつの間にか復活して、自分の目の前に立ちふさがっていることに気づかなかった。
いつのまにか復活した長太郎は、何かをたくらむようにやさしく微笑んでいた。ゆっくりとベッドに近寄り、宍戸のことを、高い位置から見おろす。蛍光灯に照らされて――――長太郎は楽しそうに微笑んでいる。そのとき、宍戸の背中に冷たい感覚が、ぞくりとつらぬいた。
「俺から宍戸さんに、二つの選択肢を出してあげます。選択肢その1、おとなしく俺に押し倒される。選択肢その2、力ずくで俺に押し倒される。ちなみに1の方が宍戸さんは痛くなくて、辛くならないから平和的ですよ?」
「ち、長太郎?なに」
をバカなこと言ってんだ。と言おうとしたときには宍戸の唇を奪われていた。びっくりして体がこわばったスキに、両手の自由は彼に奪われた。
腕を上にねじりあげられ、押さえられる。かかる圧力は暴力的なほど強く、絶対的なその力は、いくら抵抗してもびくともしない。
ただただ驚愕している宍戸の表情を見て、長太郎はゆるりと笑う。
やさしげに、冷たく。
楽しそうに、恐ろしげに。
「さぁ宍戸さん、選んでください」
甘ったるい、蜂蜜のように甘ったるい声が耳元に反響する。腕の自由は、まったくきかない。鳳家には、俺ら以外誰もいない。
長太郎はネクタイを、シュルリとほどいた。
「え、ちょ、ちょっと待・・・」
「『待て』という選択肢なんてないですよ、宍戸さん」
宍戸はさーっと青ざめる。頭から背中から全身から、血の気が失せていくのがわかる。
――――どちらを選ぶにしろ、逃げ場はなかった。
+++
親愛なるフユ様に捧げます。
生まれて初めて書いたよ黒チョタ。生まれて初めて書いたよ、ぬるい15禁(帰れ)。
そんな恐ろしいものを捧げていいものかしらがたぶる。まぁいいかしら、頑張ったし(自分の星へ帰れ)。
こんな鳳宍でよろしければ、貰ってやってくださいフユ様。ちなみにクーリングオフ期間が過ぎても、レシートがあればいつでも返品は可能です(笑/でも本気)。
07,07,17:UP
07,07,18:ReUP
←