シカクいハコのツクリカタ

【零話 家出少年の消息】

「鳳!」
突拍子もない大声に、おれは振り向いた。
見ると部室の入口に、滝先輩が立っていた。
「ちっす。どうしたんですか、そんな大声だして」
「大変、なんだ」
たいへん、なんだ。
いつも穏やかな彼にしては珍しく、鬼気迫った表情だった。おれは何か嫌な予感がして眉をひそめた。
「なんですか?」
「・・・・・・」
「滝先輩?」
「落ち着いて、聞いてくれよ」
「だから何がですか」
「鳳」
おおとり、
ししどがね、いないんだ、
きのうからずっと、いえにもかえっていないのに、れんらくがとだえてしまったんだ。
ししどが、いなくなってしまったんだ。
どこにも、いなくなってしまったんだ。
「・・・はい?」
「今、みんなで手分けして探しにいったり、宍戸のケータイに電話かけたりしている」
「なに、言って」
「正直、オレもまだよくわからないんだ」

でも、れんらくがとだえてしまったんだ、ししどの。
きのうまでつながったれんらくが、とだえてしまったんだ。
滝先輩はつぶやいて、少しうつむく。おれは変な気持ちでその姿をぼんやり眺めていた。
「鳳さ、」
ふいに顔をあげて滝先輩が言う。
「君もしばらく、宍戸が家出をした後も連絡とり続けていたよね?」
「え? おれ・・・」
「うん、それで昨日も連絡していたんじゃないかな? その時宍戸なにか言っていなかった? どこに行くとか」
きのう? おれがししどさんと?
記憶をめぐらせる。昨日はたしか、いつも通り練習が終わって、いつも通り帰った。ああ、そういえば、宍戸さんはまだ家出している最中だから、一人で帰っていたんだ。それで、連絡したっけ。
(でもなぜだろう)
(よくおもいだせない)
「・・・いえ、別になにも言ってませんでしたよ」
「そっか」
はあ、と肩を落として嘆息する。滝先輩はそしてポケットからケータイを取り出して開いた。
「電話、さっきからかけているんだけど出ないんだよね」
「おれもかけてみます」
ぱくり。ケータイを開いて発信履歴の名前からダイアル。おれが最もよく使う番号。
「出ない?」
「ちょっと待ってください。・・・はい、全然出てくれませんね」
滝先輩は、脱力してうなだれた。
「宍戸・・・どこに行ったんだ」
はあ。滝先輩が、何度目かわからないため息をつく。その一挙一動が、おれにはスローモーションがかかってくっきりと見えた。
(なぜだろう)
おれは今、おそろしいほど穏やかな気持ちだった。体の底は水を打ったように静かすぎて、おれは少し参ったなあと思った。
焦った表情の滝先輩は、ゆっくり手をあげると、くしゃりと自分の髪を掴んだ。どうしたらいいか、わからないと言いたげだった。何をすればいいのか、わからないで自分の無力さを嘆いているようだった。
おれのケータイから伝わってくる冷たい感触が、えらく心地よくて、おれはすうっとそのまま目を細めた。


(だけど、)

(さっきからポケットの中でブルブル震えているケータイは、一体誰の物なのだろうか)

耳の奥に、あの音がむなしくずっとこだましていた。

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